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老女が死んだ。 老女が死ぬのは二度目だった。 それはひそかに彼女の二度目の生後の知り合い総てに伝わった。理由は知らされなかった。刑事であり同僚だったゲジヒトにすら、その箇所に置いての緘口令は有効だった。 老女が追っていた人を殺す人形のことを知っていたゲジヒトは、きっと彼女は人形を殺す最中に、老女が言ったように命を落としたのだと確信している。 彼女から彼宛てに、一つの封筒が残されていたことを知ったのは、死を知らされた何日も後のことだった。 孫がいること。彼女は老女が祖母だとは知らないが顔見知りであったこと。彼女は紛争のある地域に赴いて小さな子供達のためにサーカスの真似事をしていること。出来れば老女の代わりに、彼女に困ることがあれば力を貸してやって欲しいという控えめな依頼。最後の最後に、残したいもののある近しいひとに遺書を書きなさいとひとこと添えて、流麗な草書体は老女のサインで閉じられていた。 残したいものなどありはしないと言っていた筈なのに。封筒の中身は明らかに人間が死ぬ前に書き綴る遺書そのものだった。 ゲジヒトは本当にロボットには人間が殺せないのか、自らに繰り返し問い掛けていた。 (ブラックボックスの中の彼が「うそだ!」「その証拠はおまえ自身じゃないか!」と声を荒げることを恐れて、ゲジヒトはそれに蓋をしたのだった。) 2008 7/20 |