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「エプシロンはテロメアって知ってる?」 「DNAに含まれる一部分のことですね。細胞分裂の一生分の数を司るのでしたか。」 「ずっと昔、トラキアがまだアメリカって呼ばれてた頃、これを外部からコントロールすることが出来れば不死の人間が造れるって考えた科学者が居たの。ウイルスや脳波に似た微弱な電気信号を用いた実験を何度も行った。実験された人たちはどうなったと思う?」 「いえ、知りません。」 「癌化した肉の塊になって死んだの。」 「…」 「あまりにも危険で非人道的な実験だって、直ぐに研究は封印されたわ。もうそれを知る人も触れる人も表面上いないけど、ロボット工学者は研究のほんの触りの部分を勉強するんだよ。どうしてだと思う?」 「…いいえ、解りません。」 「きっと、君達に対する研究自体がテロメア補完の代用だから。」 「代用。」 「ロボット製作の技術はね、全部人間に代用可能なものなんだよ。たとえば四肢。義肢を神経と繋いで脳の命令に沿うようにプログラミングしてやれば、今ならオリジナルと全く変わらないうごきをしてくれる。脳をそのままロボットの身体に繋げることは誰もしようとはしないけど、代わりにAIにそっくり思考や記憶をコピーする脳ダウンロードなんて方法まで開発した。まあ、これは人間同士の意識交換に用いる技術が元らしいけれど。人間は不安定で替わりのきかない腐る乗り物を捨てたいのね。死ぬのが怖いんだね。 「は、」 「ん?」 「はそうして、自らのために他を犠牲にするような技術開発の仕方が厭なのですね。」 「まさか。自分本位じゃない一次創作の思想なんてあるもんか。なんだってそうよ。普通のことだわ。そんなの、今更よ。」 「でも、」 貴方はとても苦しそうに見える。 エプシロンはずっと宙を見詰めていたの眼を追った。光が翳るような静かな不安定さに漂う彼女は、ディスクスキャンとクリーニングの間動けないロボットが横たわった金属の台の横のスチール椅子に所在無さ気に座っていた。 彼女はゆるゆるとエプシロンを眼に留めた。正確に言うなら、彼の末端である爪先を見詰めた。 乞われているような気がしたエプシロンは、の頬に手を持ち上げる。指が触れると、陰った星そのものは自ら白い手に擦り寄った。重みがいとおしくて、ゆっくりと柔らかい頬を撫でて耳を擽った。キスをしてあげたいのに、たくさんのコードにつながれた彼は頭を持ち上げることも叶わない。替わりに親指で唇をなぞった。に優しく在るように。 「こうして愛情を持つように進化することも、テロメア補完の想定の内なのでしょうか。」 「…わかんない。」 「そうですか。」 「ただ楽園に帰れないって事実から眼を背けて、無責任に君達を作り続ける私達って、なんて馬鹿なんだろうね。」 「は死にたくないでしょう。」 「でも、死ぬよ。」 「ええ、私も貴方も、死にます。」 「死ぬのは怖いね。」 「あなたが居なくなるのは淋しい。」 「うん。君が居なくなるのは悲しい。」 いつかそうなる日が本当に来るよ。の手がロボットのそれに重なる。そのまま口を寄せて、手首にやわらかくキスをひとつ落とす。 どっちが先かは知ったことじゃないし、どっちが先でも私達はつらい。押し当てた唇をくぐもった振動が揺らした。 「そう思うことはどちらも一緒なのに、それでも貴方は罪の意識に苛まれているんですね。」 は、彼の人差し指が睫を弄ぶ感触を知覚しながら「だからこそ、ね」と肯いた。 2011 01/05 |